医療翻訳に必要なものには、大きく分けて次の3つがあります。
医薬の専門知識
翻訳技能
実は、こうした知識や技能を習得するのに、資格・検定試験の勉強が役立ちます。
この記事では、医療翻訳を始めるために必要な翻訳技能を身につけるのに役立つ資格・検定試験をご紹介します。
語学力・医薬の専門知識・翻訳技能のなかでは、翻訳技能を身につけるのが一番大変かもしれません。
なぜなら、医療関連の書類(特に患者のデータが含まれているもの)は機密事項となっていて表には出ないため、たとえ翻訳技能は独学できたとしても、それが正しいかどうかを自分で判断するのは難しいからです。
そこで医療翻訳の専門スクールで学んだり、医療業界で働きながら習得したりして、第三者に見てもらいつつ、資格・検定試験で客観的に判断してもらいます。
翻訳技能の資格・検定試験は分野ごとに分かれているので、自分が選んだ分野に特化して勉強することができます。
特に理系や医療関係のバックグラウンドがない人は、こうした資格を取得すればアピール材料になりますから、積極的にチャレンジしましょう。
本業は、米国医療機器メーカーで働く医療翻訳者。副業は18年目になりました。英語で副業したい人にわかりやすく解説します。
翻訳技能のレベルアップに役立つ資格・検定試験 3選
翻訳技能のレベルアップに役立つ資格・検定試験には、次の3つがあります。
では、それぞれどんな試験なのか見てみることにしましょう。
JTFほんやく検定
試験名 | JTFほんやく検定 |
実施時期 | 年2回(1月・7月) |
受験言語 | 英語のみ |
受験要項 | 「政経・社会」「科学技術」「金融・証券」「医学・薬学」「情報処理」の5分野から選択。 ・英日翻訳/日英翻訳 ・インターネット受験 ・試験中は辞書使用可 ・機械翻訳の使用禁止 ・完成度により1~3級(実用レベル)か4~5級(基礎レベル)を判定。 3級以上に「翻訳士」の称号を付与。 |
受験料 | 実用レベル1科目:11,000円 実用レベル2科目:16,500円 4級:6,600円 5級:5,500円 4級・5級併願:11,000円 |
審査基準 | 【1級】 専門家の翻訳であると認定する。 原文の情報が正確で分かりやすく、かつ適切な文体で表現されている。 【2級】 完成度の点では1級には一歩譲るが、実務では十分に通用する翻訳であると認定する。 実務上では若干の修正が必要であるが、重大な誤訳はない。 【3級】 内容理解力、表現力などの面で欠点もあるが、限られた時間内での作業、試験という特殊な環境などを考慮すると、実務で一応通用する翻訳力があると認められる。今後の自己研鑽が鍵である。 【4級】 出題内容:英日翻訳2題および日英翻訳1題 ・原文読解能力 ― 文脈および背景情報の理解 ・英語および日本語の表現能力 ― 母国語水準に近い自然な英語表現および、こなれた日本語表現 【5級】 出題内容:英日翻訳3題 ・英文読解能力 ― 文章構造の完全な把握 ・日本語表現能力 ― 正しい日本語の記述 |
問合せ先 | 一般社団法人 日本翻訳連盟 |
>>試験の申し込みはこちら
産業翻訳の業界団体である日本翻訳連盟が主催している検定試験で、5つの分野に分かれています。
検定試験は、翻訳初心者や勉強中の人向けに基礎レベル(4~5級)、翻訳者として実務経験がある人向けに実用レベル(1~3級)の2つに分かれています。
試験の採点や評価を行うのは、翻訳現場の最前線で働く現役のプロであるため、翻訳会社によっては1級を取得していると、トライアルが免除になる場合があります。
実務経験が少ない人や勉強中の人は、まずは基礎レベルから受けることをおすすめします。実務経験を積みながら1~3級を受験し、レベルアップを目指したいですね。
自分の翻訳を第三者に評価してもらうのは、客観的な視点を意識する上でも大切です。過去問は公式サイトから注文できるので、ぜひ入手してチャレンジしてみましょう。
>>過去問の注文はこちら
翻訳発注金額(クライアント→翻訳会社)
こちらは日本翻訳連盟が発表している、一般的な翻訳料金の目安です。翻訳者のレベルによりその金額は大幅に異なりますが、医療翻訳は他の分野よりも金額が高いのがわかりますね。
合格者インタビュー
日頃から医学部図書館等を活用し、分野や日英を問わず多くの専門書に目を通す時間を積極的に作るよう心掛けています。なぜならば、定期的に仕事の依頼をくださる医師等の専門家が、「訳文を読むと、翻訳者がその分野に関する知識を持ち、関連文書を読み慣れているかどうかがすぐにわかる。」と仰っているのをよく耳にするからです。幅広く深い専門知識を極めることは容易ではありませんが、実務においてその必要性を痛感しています。(中略)
1級合格後は、企業等からお声を掛けていただく機会が非常に増え、良いご縁をさらに得ることができました。今後も自分を甘やかすことなく、知識や人に対して謙虚な翻訳者であるよう努めて参りたいと思います。
引用: 井上純子さん、英日翻訳1級合格(医学・薬学)(JTFほんやく検定公式サイト)
翻訳実務検定「TQE」
試験名 | 翻訳実務検定「TQE」 |
実施時期 | 年3回(1月・5月・9月) |
受験方法 | 在宅受験(インターネット) |
受験料 | 8,900円(早期割引) 9,900円 |
受験言語 | 英語、韓国語、中国語、フランス語、ドイツ語、スペイン語、ロシア語 (英語以外は、年間の実施回数が異なります。申し込む際には確認が必要です。) |
出題内容 | 15分野19科目 ※ここでは医療分野について解説します。 【医学・薬学】医薬品、薬理・薬物動態、安全性試験、病院・病理、臨床治療 等 【医療機器】カテーテル、ステント、内視鏡、人工臓器、画像診断装置、照射治療装置 等 |
問合せ先 | 株式会社 サン・フレア |
>>試験の申し込みはこちら
翻訳実務検定「TQE」は、産業技術翻訳事業や翻訳者の養成機関「サン・フレア アカデミー」を主催する(株)サン・フレアが独自に行っている検定試験です。
この検定試験ではテスト結果はスコアで採点・評価され、それに合わせた級が付与されます。スクールに通っていなくても、誰でも何回でも受験できます。
試験期間は5日間です。申し込みから問題のダウンロード、提出、結果発表まで、すべてインターネットを介して行われます。
スムーズなやりとりをするためにも、申し込む前にインターネット環境の確認をしましょう。
>>過去問の注文はこちら
スコアの目安
70点以上のスコアを取得するとサン・フレア専属の翻訳者登録をすることができます。
合格者インタビュー
フリーランスになる前に医療機器メーカーで社内翻訳をしていて、医療機器翻訳はやりがいがあると感じていました。そこで、もっと知識を深めたいと思いサンフレア・アカデミーの「医療機器和訳演習」を受講し始め、TQEを目標に設定しました。(中略)
TQEは、現在翻訳者を目指している方にとって、必ずしもその合否を問わず貴重な学びの機会となりますが、すでに翻訳者としてお仕事なさっている方にも大きな収穫がある、と私は思います。一般的なトライアルや普段のお仕事では、自分の訳文がどれくらいできているか・できていないか、またどのくらいのレベルにあるのかを実感する機会がなかなか無いからです。(中略)
実際のところ、私も皆さんと同じく翻訳を志し、勉強を続ける道半ばにおります。そしてその道には終わりがないところが、翻訳の楽しいところだと思います。今の努力が必ず今後の役に立つと信じて、一緒に頑張りましょう!
引用:小酒井さん 医療機器(英文和訳)、翻訳実務検定「TQE」公式サイト
JTA公認 ビジネス翻訳能力検定試験
試験名 | JTA公認 ビジネス翻訳能力検定試験 |
実施時期 | 4分野で順に実施。公式サイトで確認要。 |
受験言語 | 英語のみ |
受験資格 | 国籍、性別、年齢を問わず |
受験方法 | オンライン受験(在宅) |
受験料 | 一般 7,700円 |
出題内容 | ビジネス4分野から選択 ※ここでは医療分野について解説します。 【医学・薬学翻訳能力検定試験(英日・日英)】 英日翻訳3問、日英翻訳2問及び英文を日本語での要約1問の合計6問 |
レベル内容 | スコアにより級を付与。 1級:プロと認める十分な翻訳力がある 2級:若干の修正を要するところはあるが、プロレベルの翻訳力に達している。 3級:基本的な翻訳の素養がある 4級:英文和訳レベルから脱する必要がある 5級:日本語力、もしくは英語力自体を見直す必要がある ※JTA公認 翻訳専門職の認定条件は、2級以上。 |
問合せ先 | 一般社団法人 日本翻訳協会 |
>>試験の申し込みはこちら
こちらは日本翻訳協会が行っている、翻訳能力を測定する検定試験です。対象となるビジネス4分野には、医学・薬学が含まれています。
さらに上のレベルである「JTA公認 翻訳専門職資格試験」では、第1科目「翻訳文法技能試験」、第2科目「翻訳IT技能試験」及び第3科目「翻訳マネジメント技能試験」全ての試験に合格し、実績審査(翻訳実務経験2年以上)を合格すると「JTA 公認翻訳専門職」と認定されます。
第4科目として、このビジネス翻訳能力検定の2級以上取得が認定条件となっているので、できるだけ2級以上を目指すことをおすすめします。
一つの科目の合格有効期限は5年です。少しずつ確実に実力をつけていきましょう。
>>過去問の注文はこちら
自分の翻訳レベルを見てもらおう!
医療翻訳に役立つ資格・検定試験(翻訳編)を解説してきましたが、いかがでしたか?
翻訳技能をレベルアップするためにおすすめな資格・検定試験は、次の3つです。
特に独学で勉強している人は、こうした資格・検定試験は積極的に受けましょう。なぜなら、自分の訳文が正しいのかどうか、間違えているならどこがどう違うのかなど、客観的に見てもらうことが必要だからです。
文法や用語は正しくても、きちんとわかって翻訳しているかどうかは、その業界の専門家が見ればすぐにわかります。
理系や医療分野でのバックグラウンドがない場合は、こうした検定試験で翻訳技能のレベルアップを図り翻訳者として認定されることで、新たな仕事へとつながりますから、積極的に受けたいですね。